第2部 構成的グループエンカウンターの実践
大矢正則

高1宿泊学年研修の概要
 本校最初のエンカウンター(以下,再び構成的グループエンカウンターを指す)は,高1学年研修にて実施された。この学年行事の概要は,@目的――将来の進路を考えるにあたり,自分を見つめ直し,今後の自分のあり方生き方を模索する。 A期日――2000年11月1日〜2日の1泊2日 B場所――日経連人材開発センター富士研修所 C企画――研究・研修担当(責任者:大矢) D 運営――高1学年担当教員,研究・研修担当教員である。

実施に至る経緯
 2000年4月,研究・研修担当がこの行事の企画にあたるよう指示された。同時にこのとき,@ 自己を見つめるといった修養会的要素を中心に,A カリキュラム関連を含む進路指導的要素,B 遠足的な要素  の三つを取り込むようにと校長より指示を受けた。企画担当が学年団ではない理由は,従来の行事で見られたように,学年担当者が変わることによって,行事の内容や意味合いが違ってきてしまうことを避けるためであった。

これを受け,研究・研修担当では,1学期途中から,研修内容の検討を始めた。この年度の研究・研修担当教員は5名であったが,具体的内容のたたき台は大矢が作成し,他の4人と検討を加えていった。

8月。構成的グループエンカウンターでの実施を決定。また,講話を担当していただく講師として,カトリック教会の司祭を招くことも決定した。

その後,約2ヶ月間,研究・研修担当企画の教員研修会(8月),“Death Education”(2)をテーマとした全校生徒・教員対象講演会(10月)の準備と重なり,高1学年研修については研究・研修担当内でローカルに議論は続けていたものの,学年担当教員の方へ具体的内容を下ろせない状態が続いた。ただし,研究・研修担当のうち,二人が高1担任も兼ねていたので,ある程度の情報は伝わってはいた。

10月。正式に高1学年担当へ具体的内容を下ろした。実施まで一月を切っていたが,全体のスケジュールと,エンカウンターのマニュアル本(3)の中から特に必要と思われる部分の抜粋を資料として渡した。ただし,エンカウンターについては未体験の教員が多かったので,学年担当教員は相当な不安と心配を抱えることとなった。

資料を読んでももらったあと,放課後,クラス単位でのエンカウンターにおいてリーダーを務めることになる各クラス担任に集まってもらい,まず,実際のエンカウンターの様子が収録されたCD−ROM(4)をパソコンで提示しながら,筆者がエンカウンターの思想と技法の概要を説明し,つづいて,当日実施予定の各エクササイズについてねらい・展開・留意点を説明した。ねらいと展開をおさえたことによって,研究・研修担当以外の担任たちもエンカウンターのイメージを描くことができ,心中もちろん自分がリーダーとしてうまくできるかといった不安は残ってはいるものの,「おもしろそう」「私もやってみたい」「練習してみよう」と口にし,私も,「そうでしょう」「いまはこれしかない」「うまくいくよ」と,互いにプラスのストロークの交換会となった。

すでに実施前1週間を切った時期であったが,企画者とリーダーのこのミーティングは,今回の学年研修の成果を大きく左右した転換点であった。

実施直前の生徒のモティベーション
 実施直前,生徒がこの研修実施に対して大きな反発を持っていたことも記しておく。
 
 翌年度(2001年度)より実施される科目選択幅の減少や数学の必修化などを盛り込んだ本校の新カリキュラムが,ちょうどこの時期に発表され,特に高1生徒に及ぼす影響は大きかったので,生徒たちのフラストレーションが一気に高まった。したがって,間近に迫っていたこの学年研修に対する反発も大きくなった。それは生徒側からみれば無理もないことであった。高校の他学年は従来通り遊園地や観光地スポットへ遊びに行くのに,自分たちの学年だけ真面目な研修をさせられ,おまけに学年末に実施されてきた2〜3泊のグループ旅行もなくなったのだから。

当然生徒は今回の1泊研修がどんな内容なのか多くを知りたがった。しかしこれは絶対に教えなかった。エンカウンターがどんなものかを,実習なしに短い時間で伝えることは限りなく不可能に近いし意味もない。ましてフラストレーションが高まっている生徒に,下手に説明することは,当日に悪影響を及ぼす。

なぜなら,エンカウンターは,「今―ここ」における気づきを基本原理とするので,そのときの一回きりが勝負だからだ。生徒の不安・不満を鎮めるために「こんなことをやりますと,先に資料を配っておいたらどうか」と,企画・運営に携わっていた関係教員の多くから意見をいただいたが,エクササイズにおいては,資料(ワークシート)を配布するタイミングも非常に大切な枠(第1部参照)であるので,それはしない旨を了承していただいた。リーダー自ら事前に枠を壊すことはしないのが当然である。エクササイズはエンカウンターの起爆剤にたとえられるが,起爆剤を先に渡してしまったら先に暴発するだけのことなのである。

したがって,生徒は,わけのわからないまま当日を迎えた。実はこのこと自体が最初に仕組んだ枠(=構成)であった。エクササイズへのモチベーションを高める作業は,当日,開校式が始まった瞬間からがよいと考えていたのである。

 エンカウンターと進路指導
 ところで,なぜこの学年研修をエンカウンターで実施することとしたのか。

 それは,与えられたテーマである「自己を見つめる」,「進路指導」,「遠足的要素」(“実施に至る経緯”の項参照)をどう有機的にプログラムするかを考える過程を経て,たどり着いたものであった。

まず,自己を見つめることに関しては,本校はカトリック校であるので,普通に考えれば,神に創られ,神から愛されたかけがえのないひとり一人の人間としての自分を自覚させることが考えられる。その場合,司祭の講話を中心に,黙想や祈り,ディスカッションを取り入れたプログラムとなるだろう。いわゆる修養会である。しかし今回はそれだけですませることは許容されていなかった。進路指導もハイキングもしなければならない。ハイキングはさておき,修養会的要素と進路指導をどう統合するかが大テーマであった。そこで,企画を一任されて以来,あれこれ資料――具体的には,出版物,ホームページ,他校の実践――をあたってみた。幸いにも,高等学校の進路指導関係の図書は(無料で送られてくる生徒向けの分厚いものを除けば),この2〜3年の間に出版されたものは思いのほか少なく,ほとんどに目を通すことができた(5)。その中で,今回の研修のねらいと極めて近い立場で書かれていた図書が『進路指導と育てるカウンセリング――あり方生き方を育むために』(6)と『実践サイコエデュケーション――心を育てる進路学習の実際』(第1部の注(31))であった。これら2冊は,進路指導の本質をあり方生き方の探求におき,出発点を自己理解においている。今回実施する高1学年研修のテーマである「自己を見つめる」,「進路指導」そのものであった。しかも,その指導の実践例が豊富に収められており,それらを支える理論も明確に示されていた。

それがエンカウンターだった。

実は進路指導は学級づくりと並んでエンカウンターの二大得意分野の一つである。なぜなら,エンカウンターの大きなねらいの一つが自己理解だからである。この自己理解という原点があって,はじめて今後の生き方――進路――について,主体的・実存的に考えることができる(7)。

大学情報や産業職業情報ならいまの時代どこにいても手に入る。受験産業もネットワーク化され,大規模な模擬試験も全国広範囲で受けられるように,とうになっている。スペシャリストの情報も,校内で探すよりネットワークを介した方が容易に大量に得られる。こうしたものも進路指導の一環であることに異論を挟むつもりはないが,もっと大事な,学校でしかできない進路指導がある。それはグループの教育力(8)を活かした進路学習――エンカウンターである。エンカウンターは自己理解をねらいとするが,自己理解がなければ,どこにいても得られる大量の情報もただの電子のビットに過ぎない。

 自己理解を出発点にすえた進路指導の方法として,広く通用する学術的な理論を背景にもち,かつ,現場から多数の実践が報告されているものは,いまのところエンカウンター以外にない。少なくとも筆者の調べた限りにおいてはそうである。

 そこで,今回の学年研修にもこれしかなかった。これで失敗しても,あとはない。

当日――研修所到着まで
 午前9時より校内セントメリーホールにおいて学年研修の開校式が行われた。内容は,校長の話のみであったが,短いながらも基調講演的な位置づけとなり,エンカウンターの雰囲気づくりの第1歩となった。

 高1生徒総勢146名は,一人の欠席者もなく,クラス毎に4台のバスに分乗して河口湖近くの研修所へ向かった。雨のため,予定していた西湖紅葉台のハイキングはできず,雨の日用のスケジュールに従って,途中河口湖ミューズ館を見学した。

ところで,遠足的な要素として予定していたハイキングについての問題を少し書いておきたい。

学年担当教員の意向もあり,学校から直接バスで研修所に直行せずに途中にこれを入れ気分を切り替えるという目的でスケジュールには入れてあった。しかし,私個人は企画の段階から,これに乗り気ではなかった。眼前に大きく富士山がそびえ立つ研修所のロケーションは抜群であるので,直接そこに到着した方がインパクトが強く,“雰囲気を変える”というエンカウンターの風土づくりによいと考えていたからである。

確かに1時間のハイキングを持ってくることは,気分転換にはなる。しかし,そのあとで行うエンカウンターそのものが“いつもとは違う雰囲気”で実施されるのであるから,事前のハイキングは必要ない。ハイキングは気分を変えるかもしれないが,エンカウンターの雰囲気づくりには必ずしも有益ではない。それに予定されていたハイキングは1時間の登り下りをともなうものなので,身体が,直後からエンカウンターを行う状態ではなくなる。エンカウンターは,「今−ここ」での感性にうったえるものであるから,疲れた身体で行うよりもそうでない方が断然よい。身体の疲れは精神も疲れさせ,エンカウンターに必要な感性が鈍り,よい気づきや出会いの機会を減らす。エンカウンター自体に心地よい疲れが伴うので,初めは元気な方がよい。だから,結果的にハイキングの雨天中止は, 146名を対象とする最初のインストラクションおよびエクササイズ,シェアリングのリーダーをする筆者にとっては正直なところ嬉しかった。合宿形式のエンカウンターにおいて,最初のエクササイズはその後の成否を大きく左右する。それに今回,筆者が全体を対象としてエンカウンターを実施したあと,クラス単位のエンカウンターのリーダーをする教員は,全員が初めてリーダーをする。不利な条件を回避したかった。

さらによいことに,代替スケジュールで立ち寄った河口湖ミューズ館が思わぬ収穫をグループに与えた。この小さな美術館に常時展示されている人形作家・与勇輝の子どもを題材にした作品は,見る者の心にじわりと迫ってくる。どの作品も自分の力だけで立ち,自分の人生を懸命に生き抜こうとしている無垢な魂の輝きを放っていた。このように透明感のある,芸術性の高い作品を見たことによって,生徒は無意識のうちに感性――内なる「子ども」をたがやした(9)。この代替の立ち寄りは,エンカウンターへの効果的な予備的準備となった。

 正午頃,河口湖からほど近い研修所に到着した高1生徒たちは,3〜4名一部屋の宿泊室で荷を解き,昼食をとった後,いよいよ初のエンカウンター体験をすることになった。

 ねらいとエクササイズ
 エンカウンターでは,進路指導や自己発見をねらいとしたエクササイズは実にたくさん実践されている。新たなものを開発するのもよいのだが,初心者にはその必要はない。実施したいエクササイズも数多だが,今回の状況に最適なものをセレクトしなければならない。

将来の進路を考えるにあたり,自分を見つめ直し,今後の自分のあり方生き方を模索することが今回の研修の目的だが,諸富祥彦は,あり方生き方を育むにあたって必要な要素として,@ 「自分はこれからどう生きるか」自問する機会を設けること A 人との「違い」を「個性」と認める雰囲気を創ること B 「人生の主人公になる」とはどんなことか実感させること C 「自己決定」の機会を設けること D 「集団への貢献度」や「人生の使命感」を育むこと の五つをあげている(10)。

そこで,今回の1泊2日のスケジュールでは,エクササイズとしては『よいところをさがそう』(11),『どんな学部?どんな資質?』(12),『26才の私からの手紙』(13)の3本をメインに配置することとした。

『よいところをさがそう』は主に自己理解・自己受容をねらいとしてセレクトとし,『どんな学部?どんな資質?』はキャリアガイダンスを通しての自己理解・他者理解,『26才の私からの手紙』は2日間のエンカウンターのまとめとして自己受容と自己開示がねらいであった。

 これら3本のエクササイズをより効果的に実施するために,導入や接続の役割を果たすショートエクササイズを5本と1日目の全体シェアリングとしての夕の祈りの集い,儀式性を取り入れた2日目朝の祈りの集い,そして,エンカウンターで獲得したものに,本校のアイデンティティであるカトリックの立場からいのちを吹き込む目的で,司祭による講話を2本挿入した。

 2日間の流れを表形式でまとめておく。なお,表中に出てくる別冊マニュアルおよびほとんどの生徒用ワークシートの内容は,注に掲げた参考図書のものをほぼそのまま用いたので割愛するが,ワークシートページ6『今日のふりかえり』と『グループの振り返り用紙』は,このエンカウンターのカトリック学校としての特殊性が表れており,また,ワークシートページ13『26歳の私からの手紙』は,このエンカウンターの目指すところが表れているので,表に引き続き参考として掲載しておく。

 スケジュール(2日間の流れ)

<<1日目>>

エンカウンターT前半(導入)13:40〜14:30   場所:大研修室(全体)    リーダー:大矢

時間帯

内容

ねらい

エクササイズの内容等

留意点,ワークシートの配布,準備するもの等

13:40〜13:45

(エクササイズの目的)

エクササイズの目的を伝える。

ワークシートページ1『エクササイズの目的』(14)を配布しておく。

13:45〜13:55

エクササイズT−@

『肩もみエンカウンター』(15)

信頼体験。

(エクササイズの内容)

@隣の人とペアをつくる。

Aジャンケンで負けた人が勝った人の肩をもむ。その際,今日あったこと,いまの気持ちを思いつくままに話す。もまれている方は肯いたり,相づちを打ったりするだけにする。

B交代して同様に行う。

C相手の話を短くまとめて伝え合う。

D感想を述べ合う。

このショートエクササイズを通して,「エクササイズってこんなもの」という体験をさせる。

13:55〜14:00

(エクササイズを行うにあたってのお願い・約束)

エクササイズのルールを徹底する。

リーダーはエクササイズT−@の実態に会わせて注意を促す。リーダーの指示でサブリーダーの先生方が,ワークシートページ2『エクササイズを行うにあたってのお願い・約束』(16)を配布。

14:00〜14:10

エクササイズT−A

『呼吸を数える』(17)

感受性。

(エクササイズの内容)

@楽な姿勢をつくる。

A教師の声に合わせて,ゆっくり息を吐いたり吸ったりする。

B慣れてきたら自分で数えながら呼吸を続ける。

エクササイズを行うにあたってのお願い・約束に従ってエクササイズのルールを徹底させる。

14:10〜14:30

エクササイズT−B

『目や手で伝える』(18)

自己表現,他者理解。

(エクササイズの内容)

@約12名ずつで1列のグループをつくり,伝言ゲームの要領で,ジェスチャーで,あるものを伝える。

A全グループ終わったところで,答合わせをする。これが第1問。ちなみに問題は全グループ同じで「ジェットコースター」だったが,正解は12グループ中の2グループ。

B続いて第2問。今度はジェスチャーもなし。顔だけで感情を伝える。問題は「喜び」「怒り」「悲しみ」「驚き」のどれかでグループによって異なる。

C答合わせをする。

・以後に行われる非言語エクササイズの練習。

・リーダーの指示でサブリーダーの先生方が,ステージに向かって1番左側の生徒には問題用紙を,1番右側の生徒には画用紙1枚とマジックを配布。(問題,画用紙とも1問ごとに配布)

エンカウンターT後半(展開T) 14:40〜16:00 場所:中研修室,2階ロビー,3階ロビー(クラス単位)    リーダー:各担任

時間帯

内容

ねらい

エクササイズの内容等

留意点,ワークシートの配布,準備するもの等

14:40〜15:00

エクササイズT―C

『ねえ,どっちがいい』(19)

自己理解,他者理解。

(エクササイズの内容)

@ペアをつくる。

Aワークシートの各項目(山,川),(太陽,月),(神,仏),(大勢の友達,少数の親友)について,二つのうちから好きな方を選ぶ。

Bシートを交換して見せ合う。

C選んだ理由を紹介し合う。

別冊マニュアルに従って実施。

ワークシートページ3『ねえ,どっちがいい』を配布。

ワークシートページ4『一つのエクササイズの流れ』(20)を配布・説明。理解を得る。

15:00〜16:00

エクササイズT―D

『よいところをさがそう』

自己理解,自己受容。

(エクササイズの内容)

@最初に少し時間を与えて自分のよい点を五つくらい思い浮かべさせる。

A次に二人組をつくって一方が相手のよいところを言葉を使わずにジェスチャーで伝える。

B数分経ったら役割を代える。

C互いに伝え合ったら,違う二人組をつくり同じことをする。

D何回か二人組をつくり直し同じように相手のよい点を,言葉を使わずに伝える。

別冊マニュアルに従って実施。

ワークシートページ5『よいところをさがそう』を配布。

講話T 16:30〜17:45 神父様

神父様には事前に,エンカウンターの流れに沿ったお話をして下さるようお願いしてあった。内容的には,あり方生き方を育むにあたって必要な要素(ねらいとエクササイズの項参照)@ABと関連深かった。「まこと親である神に愛されていることを信じることで,真の自己受容へ誘われる」というのが講話の主旨であった。

エンカウンターU(第1日目のまとめ)   場所:中研修室,2階ロビー,3階ロビー(クラス単位)    リーダー:各担任

時間帯

内容

留意点,プリントの配布

19:00〜19:15

個人のふりかえり

ワークシートページ6『今日のふりかえり』配布。話をさせないよう留意する。

19:15〜19:20

部屋毎にシェアリング

部屋の仲間と感想を言い合う。その際,エクササイズT後半で配布した生徒プリントのワークシートページ4“シェアリングの際,心に留めて欲しいこと”を思い出させ,話し役,聞き役の区別を付けさせ,一人1分で話させる。

19:20〜19:35

二部屋合同でシェアリング

『グループの振り返り用紙』を配布。書いてあることを教師が読み上げ,祈りの文をつくらせる。

夕の祈り19:40〜20:00  司式:神父様 進行:大矢

(1)      招きのことば
(2)      聖書朗読
(3)      各グループによる祈り
(4)      結び(神父様)
(5)      聖歌

<<2日目>>

朝の祈り6:30〜6:45 司式:神父様 進行:由井

(1)      聖歌
(2)      聖書朗読
(3)      神父様の話
(4)      フランシスコの平和を求める祈り
(5)      結び(神父様)

エンカウンターV(展開U)6:55〜7:15   場所:中研修室,2階ロビー,3階ロビー(クラス単位)    リーダー:各担任

時間帯

内容

ねらい

エクササイズの内容等

留意点,ワークシートの配布,準備するもの等

6:55〜7:15

『ボディ・パッティング』(21)

身体の感覚を意識化させることと。相手に対して暖かい気持ちを持つこと。

広い芝生の中庭で,エクササイズ『自然との対話』(22)をする予定であったが,雨のため,代替プログラムとして実施した。

講話T 8:30〜9:45 神父様

神父様には事前に,エンカウンターの流れに沿ったお話をして下さるようお願いしてあった。内容的には,あり方生き方を育むにあたって必要な要素(ねらいとエクササイズの項参照)Dと関連深かった。「ひとり一人を愛してくださっている神様は,ひとり一人に違った使命を下さっているので,その使命を探すことが進路を探すことにつながる」という主旨のお話であった。

ティータイム 10:00〜10:20

エンカウンターW(展開V) 10:30〜11:50   場所:中研修室,2階ロビー,3階ロビー(クラス単位)    リーダー:各担任

時間帯

内容

ねらい

エクササイズの内容等

10:30〜11:50

『どんな学部?どんな資質?』

キャリアガイダンスを通しての自己理解・他者理解。

(エクササイズの内容)

@自己表現力,判断力,数理能力,・・・など約30の資質とその説明が書かれた「資質名一覧表」を配布し理解させ,その中で自分が持っていると思われる資質をいくつか選ばせる。

A次に,進学希望学部ごとにグループをつくり,そこで話し合って,その学部にはどんな資質が必要と思われるか5〜6個選ばせる。

B次にまた個人になり,今度は,進学希望学部に進むためには,国語,英語,数学,・・・などの高校の科目の中でどの科目が必要か考えさせる。

C次にまた先ほどの進学希望学部ごとのグループになり,話し合って,その学部に必要な科目について,一つの結論を出させる。

D最後に大学の先生が,その学部に進むためにはどんな資質とどんな科目が必要と考えているかについてまとめた表(こちらで用意)を配り,グループで自分たちの結論と比較・検討させる。それを全体に発表する。

別冊マニュアルに従って実施。

ワークシートページ9〜12を配布。

エンカウンターX(まとめ) 13:00〜13:40    場所:大研修室(全体) リーダー:由井

時間帯

エクササイズ

ねらい

留意点,プリントの配布,準備するもの等

13:00〜13:40

『26歳の私からの手紙』

自己受容

自己開示

2日間の研修のまとめとして,10年後の自分になった積もりで,いまの自分宛に手紙を書かせる。ワークシートページ13を配布し,条件の1〜9を読み上げたあと,作業に入らせる。

(参考)生徒用ワークシートの一部

ページ6(氏名:          )

今日のふりかえり

今日の一日

 *      学校で校長先生のお話を聞いた。
 *      ハイキング(雨天の場合は美術館)へ行った。
 *      エクササイズをした。

 (大研修室で)
 『肩もみエンカウンター』・・・肩をもんでもらいながら話を聞いたね
 『呼吸を数える』・・・息に集中した
 『目や手で伝える』・・・うまく伝わったかな

 (クラス毎に)
 『ねえ,どっちがいい』・・・結構みんな違うんだ
 『よいところをさがそう』・・・新しい発見があった?

 *      神父様の講話

シェアリング

a.今日のエクササイズは,全体的にみて楽しかったですか?
 1 とても楽しかった
 2 少し楽しかった
 3 どちらともいえない
 4 あまり楽しくなかった
 5 全然楽しくなかった

b.今日のエクササイズは,あなたのためになりましたか?
 1 とてもためになった
 2 まあ,ためになった
 3 どちらともいえない
 4 あまりためになっていない
 5 全然ためになっていない

c.今日のエクササイズやシェアリングにおいて,あなたは相手の人が話しているとき,話す人の身になり話しやすいように考えて聞いていましたか?
 1 全然考えていなかった
 2 あまり考えていなかった
 3 どちらともいえない
 4 少し考えていた
 5 いつも考えていた

d.今日のエクササイズやシェアリングにおいて,あなたは自分がしゃべるときは,恥ずかしがらずに相手の人に話すことが出来ましたか?
 1 全然出来なかった
 2 少し出来なかった
 3 どちらともいえない
 4 少し出来た
 5 たいへんよくできた

e.今日のエクササイズと神父様の講話を通して感じたことを何でも書いて下さい。

(罫線略)

f.次の夕の祈りで捧げたい祈りがあれば,書いて下さい

(罫線略)

(部屋番号:   :    :    )

グループの振り返り用紙

今日一日のできごと―――聞いてくれた友だち,話してくれた友だち,神父様のお話・・・。リーダーの先生方からは自己理解,自己発見,他者理解・・・,いろいろな言葉が飛び交った。そうした今日一日の出会い,気づき,成長に感謝して,その気持ちを神様に伝えましょう。そして,祈りたいことも伝えましょう。グループで一つ感謝と祈りの文を作成して下さい。次の夕の祈りでみんなの前で読んで下さい。

(罫線略)

(図略)

(グループで一人,これを読む人を決めて下さい。その人が祈りの集いの時持っていること)

ページ13(氏名:          )

エクササイズX

26歳の私からの手紙

差出人は26歳のあなた,受取人は今日のあなたです。
次の1〜9の項目について必ず触れて手紙を書いて下さい。
 1.     (26歳のあなたは)いまどんなところに住んでいるか(都会?いなか?日本?海外?)
 2.     (26歳のあなたは)誰とどのように住んでいるか(家族は?結婚は?どんな家で?)
 3.     (26歳のあなたは)どのような仕事や研究(大学院に行っているかも知れない)をしているか
 4.     (26歳のあなたは)仕事や研究では,どのような活躍をしているか
 5.     (26歳のあなたは)そのような仕事や研究に就くまでに,高校後半からどのような勉強(経歴)をしてきたか
 6.     (26歳のあなたは)毎日どのように過ごしているか
 7.     (26歳のあなたは)暇な時間や休日はどのように過ごしているか
 8.     (26歳のあなたが)いまのような生活を送るために,10年前のあなた(つまり,ここに座っている君)にどんなことをしておいてほしいか
 9.     (26歳のあなたから)ここにいる高1のあなたに,はげましとなるような,元気づけるようなアドバイス等をおくってやってください
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(  )歳の(        )様へ

26歳の(        )より

(罫線略)

生徒たちの変容
 このエンカウンターを通しての生徒たちの変容についてであるが,前述したように,出発前この研修に対するモチベーションは低かった。しかし,このエンカウンター全体の個人的のまとめという位置づけで実施した最後のエクササイズ『26才の私からの手紙』においては,生徒たちは大人になった気持ちで,思いをいまの自分宛に綴った。これらの手紙はどれもそれぞれに自分が表現されており,感動的なものも数多くあった。いまの自分を愛おしむ表現が数多く見られたが,これこそ今回の研修=エンカウンターが最終目標としている「自己肯定の深まり体験」であると思う。

いくつかの手紙から,該当部分を抜粋しておきたい。

ここで一つあなたにアドバイス。いろいろと苦労したり,泣いたりもあるけど,その分きっといつか倍になって楽しいことがあるから,けっしてあきらめないで頑張って!・・・つらくなったら,たまには息抜きしてもいいからね。 (M)

これから生きていくうえで,自分に無理しないで,自分にあった人生を見つけていって下さい。 (Y)

努力はしただけ残ります。どんなに小さなことでも,あきらめないでがんばって下さい。(N)

私があなたに望むのは,あなたがあなた自身を,心から愛してあげてほしい。(O)

こんな私の人生も神様の手の中にある。だけどすべてはあなた自身が動き出さないと始まらない。(I)

かけがえのない一瞬一瞬を大事に生きて下さい。体に気をつけて。(J)

今そこにあなたがいなければ,今ここに私はいません。(R)

このエンカウンターに対する評価

この小論では割愛したが,事後に行ったアンケートによれば,この方法で進路指導に関する学年研修を企画・実施したことに,一件だけ「少し強引だった」という意見があったが,全体的には運営にあたった学年担当教員団,ことにエクササイズのリーダーを体験した教員からは良好な評価が得られた。生徒がこの研修のまとめとして書いた『26歳の私への手紙』の何通かに目を通せば,この評価に肯くことができる。筆者としても,今回は一定水準以上の成功を見たと評価している。それは,学年の進路指導としても,エンカウンターとしてもそうであるし,宗教教育としてもまたそうであったと考えている。

カトリック学校におけるエンカウンター

エンカウンターの中に祈りの集いや司祭の講話を入れることに関しては,重要な問題が含まれているので,最後に触れなければなるまい。

エンカウンターの人間観は実存主義である。実存主義にはキルケゴールを出発点とする有神論の実存主義と,ニーチェに代表される無神論の実存主義がある。前者は実存の獲得を,単独者として神の前に立つ宗教的実存におき,単独者として超えねばならぬ集団として教会社会を見た。後者は神の死を宣言し,自己の運命を逞しく生きる超人こそ人間の真実の生き方であるとした。いずれにしても,自らが自らの主人公となるために,「ひとつは集団に対し,他は神に対し,それぞれ独立宣言をたたきつけている」(23)。このように見ると,実存的存在になることを阻む壁は教会か神のどちらかということになるが,エンカウンターでは,とにもかくにも,自分が自分の主人公になることを促す。これが現在のエンカウンターの人間観を支える実存主義である。國分康孝も「実存主義の流れをくむエンカウンターには,「永遠不滅の絶対的存在」「人間が身をまかせうる(帰依できる)不変の存在」がない」(24)とはっきり述べている。これを見る限り,エンカウンターでいわれる実存主義は,(少なくとも主流は)無神論かそれに近い。しかし,カトリック学校では,そうした人間観だけで教育することは,設立の原理からできない。そこで,カトリック学校においてエンカウンターを実践する際は,いま一度実存主義の源流を確認し,宗教的実存に実存の獲得を求めた有神論の実存思想をその人間観にすえればよい。

とはいってもそれは単に理屈に過ぎないかもしれない。なぜなら,エンカウンターにはリーダーのパーソナリティが直接反映されるのであって,その学校がどんな学校かは2次的な問題だからである。カトリック学校に勤務する者の多くは信者ではないし,信者の方がエンカウンターのリーダーにふさわしいということもない。

それに,再三述べたように,エンカウンターが大切にしているのは「今―ここ」でどうなのかであるから,あえてはじめから有神論だの無神論だのいう必要もないことになる。

しかし,生徒の気づきや,自他の受容の仕方,シェアリングでの発言内容などには,普段の宗教教育によって,他とは違った側面が出てくるだろう。また,それを期待したい。カトリック学校は,生徒が神の前で実存的存在となっていくことを他の学校にまさって支援しているはずだ。しがたってカトリック学校が合宿形式のエンカウンターを実施する場合,今回のようにカトリックの独自性を活かした講話や祈りをエンカウンターの流れの中に埋め込むことは,自然な展開であるといえよう。

ことに祈りはカトリック学校のエンカウンターにおいて重要な要素である。なぜならそれは深いシェアリングであり,深いエンカウンターそのものだからである。

まず,神の前に自らのすべてをさらけ出す個人の祈りは,個人のシェアリングとして,祈らない場合より(神と自分に対して)深い自己表出ができる。また,今回取り入れたようなグループによる祈りでは,感情交流とはまた違った次元(強いていえば宗教的レベル)でグループメンバーと出会うことができる。その結果,思考・感情・行動の拡大・修正が期待できる。

また,祈りは神との対話であり,神との出会いの場でもある。したがって,祈りは,最も深いエンカウンターを人間にもたらす。

ただし,それらは宗教教育が成功している場合にのみ実現する可能性がある。カトリック学校におけるエンカウンターは,宗教教育と切り離せない関係にあるし,進路学習と宗教教育の一元化を実現する。

   

(1)      具体的には,『エンカウンターで学級が変わる 高等学校編』の第1章〜第3章の抜粋であった。

(2)      本校で継続実施している「豊かな人間性を育てるための教育」の一環としてこの年は,いわゆる「死への準備教育」を,デーケン神父の講演を柱に,各クラスのLHRも活用して実施した。「死への準備教育」については,2001年東京純心女子中学高等学校紀要において由井峰雄教諭が報告している。

(3)      『エンカウンターで学級が変わる 高等学校編』より抜粋した。

(4)      國分康孝監修『エンカウンターCD-ROM』(図書文化)

(5)      1998年以降出版された教員向けの進路指導関係の書籍としては,本文にあげた2冊以外では,中学生向きのものも含め,日本進路指導協会監修『最新進路学習を核とした学級活動の展開』(2000 実業之日本社),鹿嶋研之助『進路指導を生かす総合的な学習』(2000 実業之日本社),仙崎武『担任のための生き方教育としての進路指導』(1999 学事出版)くらいしか出ていない。

(6)      國分康孝編集代表『進路指導と育てるカウンセリング−−あり方生き方を育むために』(1998 図書文化)

(7)      吉田隆江「進路指導から始めよう」(所収『エンカウンターで学級が変わる 高等学校編』)p.15。ここでは進路指導を@自己理解,A進路計画,B学校選択・学校情報,C職業選択,産業職業情報,D啓発的体験,E就職・進学,F追指導,職場対応の7分野に分類し,「自己理解」が最初にあることに注目させている。

(8)      ここで,グループの教育力とは,臨床心理学的なグループの治癒力の意。普遍性,受容性,愛他性,感情転移,観察効果,情報伝達・交換,知性化,現実吟味,人間像の修正,実存的問いかけなどが,グループアプローチに特徴的な治癒要因としてあげられる(林昭二・駒込勝利『臨床心理学と人間』1995 三五館 p.122〜123)。

(9)      この言葉は,河津雄介『授業を生き生きとしたものにする授業をする教師の力量を高める基本教材』(2000 ほんの森出版)よりお借りした。

(10)  『進路指導と育てるカウンセリング−−あり方生き方を育むために』p.20〜23

(11)  『エンカウンターで学級が変わる 高等学校編』p.126

(12)  『エンカウンターで学級が変わる 高等学校編』p.121

(13)  『エンカウンターで学校が変わる 中学校編』p.192の「25歳の私からの手紙」を少しだけアレンジしたもの。

(14)  『 エンカウンターで学校が変わる 中学校編』p.81をもとにして作成した。

(15)  『エンカウンターで学級が変わる ショートエクササイズ集』p.68

(16)  『エンカウンターで学校が変わる 中学校編』p.81をもとにして作成した。

(17)  『エンカウンターで学級が変わる ショートエクササイズ集』p.182

(18)  同p.118

(19)  同p.92

(20)  『エンカウンターで学校が変わる 中学校編』p.83をもとにして作成した。

(21)  『新版学級経営実践マニュアル』p.111

(22)  同p.176

(23)  『カウンセリングの理論』p.189,190

(24)  『エンカウンターとは何か』p.222

注に掲げた以外もの以外で参考にした図書

(1)    河合隼雄他編集『臨床心理学大系7〜9(心理療法1〜3)』(1989〜1990 金子書房)

(2)    伊東博『ニュー・カウンセリング』(1983 誠信書房)

(3)    G.Hendricks,R.Wills『センタリング・ブック』手塚郁恵訳(1990 春秋社)

(4)    石崎洋一・富田麻紗子・手塚郁恵『きらきらゲーム』(1997 善文社)

(5)    諸富祥彦『カール・ロジャーズ入門 自分が“自分”になるということ』(1997 コスモ・ライブラリー)

(6)    A.Mindell『自分さがしの瞑想』手塚郁恵・高尾受良訳(1997 地湧社)

(7)    Albert Ellis『どんなことがあっても自分をみじめにしないためには―論理療法のすすめ』國分康孝・石隈利記・國分康子訳(1996 川島書店

(8)    I.D.Suttie『愛憎の起源』國分康孝・國分康子・細井八重子・吉田博子訳(2000 黎明書房)

(9)    手塚郁恵『ホリスティックワーク入門』(2000 学事出版)

(10) G.A.Castillo『心と感性を育てるエクササイズ』縫部義憲・西谷英昭訳(2000 瀝々社)

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